一日の授業を終えて家に帰ってからも、わたしのどきどきはおさまらなかった。


 庭に出て、小さな花壇の前でしゃがむ。
 ピンク色のサクラソウが、可憐な花を咲かせている。
 この花が大好きで、自分でホームセンターで苗を買ってきて、植えたんだ。

 わたしは昔から植物を育てるのが好きで、小学生のころは委員会で花壇の世話を
していた。

 まわりに、お花が好きな同級生がなかなかいなくてさびしかったけど、絵里はおばあちゃんの家がお花屋さんで、植物に詳しかった。それがきっかけで仲良くなったんだ。

 中学ではふたりで園芸部に入っていたけど、高校には園芸部がないから、わたしは部活をしていない。
 絵里は部活よりバイトをしたいと言って、早々にカフェのアルバイトをはじめた。

 サクラソウの花びらが揺れる。

 サクラソウの花言葉は……、「初恋」。

 胸がいっぱいになって、ため息がこぼれ出た。
 わたし、森下くんのこと、何も知らないのに。
 かっこよくて、優しくて、わたしなんかにも気さくに話しかけてくれるというだけで、好きになっちゃうなんて。

 しかも、絵里や颯ちゃんを巻き込んでしまった……。

 お隣の門扉が開く音がして、はっと我に返る。

 立ち上がってお隣を見ると、やっぱり颯ちゃんだった。
 「おかえり」

 わたしは自分の家の門扉越しに、颯ちゃんに声をかけた。

 ぼーっとしている間に、日が傾いて、空はオレンジ色に染まっている。
 颯ちゃんの顔も、オレンジ色。

「ただいま」
「部活、大変だね」
「ん。今日は早く上がったほうだよ」

 颯ちゃんは自分の家の敷地に入るのをやめて、わたしのそばに寄った。

「一応、探り入れてみたんだけど。智也、今フリーだってさ。好きな子もいないって」
「あ。そ、そう、なんだ」
 どきっとする。
 いきなり、森下くんの話なんてするから。

「『今』フリー、ってことは……。前はいたのかな? 彼女」
「あいつ、もてるからな。何人かいたっぽいけど。でも、どの子も長続きしなかったって言ってた」
「へえ……」

 そんなにたくさんの女の子と……。

 一瞬たじろいだわたしの表情を見て取って、颯ちゃんはあわてた。