日が落ちはじめて気持ち良い風が吹き始める。

「なぁ、宮川。神谷凛って知ってるか?」

神谷、凛。《かみや りん》
確か吉良君に並ぶ将来有望な天才的スイマーだ。
そんな天才がひとつの県に3人もいる。
まぁ梓月は留学中だけど…。

「うん、知ってるよ。」

だって梓月がいつか競争したいって。
神谷凛と、吉良陽都と─

中学校の頃から聞いてたからね、二人の名前は。その時から有名だった。

それと同様、梓月も。
─最強の宮川双子─

「だよな。あいつ、有名だもんな。」

「吉良君も有名だよ。」

「そうか?ありがとな。
…凛はな、俺と、郁と幼なじみなんだ。」

そうか、吉良君が幼なじみなら必然的に上田君も幼なじみになる。

「だからこそ、俺、凛に勝ちたいんだ。
─ずっと一緒にやってきた戦友だから─」

あぁ、わかってしまうその気持ち。
ずっとずっと、この先も一緒に泳ぐと思ってた。
でもそれは
─突然叶わなくなった。

私は無意識に胸元で光るネックレスを握りしめた。

「そっか。勝てるといいね。」

苦しさを閉じ込めて、
そんな言葉しか返せなかった。

その後は他愛のない話をして
吉良君は家まで送ってくれて。

「吉良君、送ってくれてありがとう。」

「いいよ、俺の我が儘だからさ。
はやく家に入れよ?」

「吉良君を見送ったらね。」

「心配性かよ。」

そう笑いながらいう吉良君。

「ふふ。気をつけて帰ってね。」

「あぁ、ありがとな。また明日。」

「うん、また明日。」

彼は来た道を戻るように帰っていった。

…もしかして家、反対方面だったのかな。
そう思うとものすごく申し訳なかった。

そして、彼の泳いでる姿が頭から離れなかった─