「あの……有村さん。さっきの話の続きなんですが……」

「ん?」

何のことかすぐには分からなかったけど、緊張気味の若林君の顔を見て、このモードレコードの事件が起きる前、彼に言われたことを思い出した。

そうだ確か、都筑さんを忘れさせてみせるって言われたのだ。
それってもう告白だ。
決定的なことを言われたわけではないけど、若林君なりに頑張って言ってくれた言葉。

どうしよう……。
都筑さんを見て泣きたくなる気持ちは変わらないし、まだちゃんと話もできていない。
誰が現れても都筑さんのことばかり考えていて、若林君の気持ちに応えることはもちろんできそうにない。

「若林君……」

ごめんね若林君。ずっと味方してくれていたのに……私……

「僕……桃木さんを好きになってしまいました」

……ん? 何?

桃木さん?

「……はあ」

「桃木さん、僕を手伝ってくれている間、ずっと笑顔で……可愛くて……」

えー?

「ドキドキしちゃって……しかも、皆に内緒で、手を握られたんです! 気付きました!? デスクの下で!」

「いや、分からなかったけど……」

「多分彼女、僕のこと好きなのかもしれません……社長の元カノでもいいです。僕、もう桃木さんのことが頭から離れなくて……」

「そうなんだ……?」

「はい! だから有村さん、すみません! 有村さんに言ったことは取り消させてください!」

九十度に頭を下げられて、若林君のマッシュのつむじが見えた。
こんなに憎たらしいつむじは初めてだ……。

何、この、告白してもいないのに勝手にフラれた気持ちは。