「どうすればいいですか」

私は頭を切り替えて、都筑さんに指示を仰いだ。
こういうときの都筑さんは頭がきれる。
伊達にデザイナーとして無理難題を乗り越えてきちゃいない。

「至急、全員でモードレコードのデザインを組み直す。今日は帰れないと思ってくれ。会議をする時間はないから意見はここで言え」

さすが、都筑さんに鍛えられた精鋭たちはすぐに臨戦態勢に入り、「はい」と揃った返事をした。

「有村。お前は先方に打ち合わせを延ばせないか交渉しろ。一度オーケーを出した向こうにも責任はある。費用か納期。どっちも現状のままじゃこの変更はさせない」

「分かりました」

私に出来ることはそれくらいしかない。
豊崎さん相手にどの程度交渉できるだろうか。
名刺ホルダーから豊崎さんのものを取り出し、オフィスにある唯一の固定電話を耳に当てた。

「京さぁん。私は何をすればいいですかぁ?」

私が番号を押して、呼び出し音が聞こえている間、桃木さんはひとりだけ余裕のある顔で都筑さんにそう尋ねている。

「桃木はデザインに入れ」

「はぁい」

……都筑さん、桃木さんに手伝わせるんだ。
もちろん緊急事態なのは分かるけど、彼女がデザイナーとしてどこまでできるのかは未知数なのに。

……って、いけない、私は自分の役割に集中しなきゃ。
クライアントに交渉をするときは毎回心臓が痛くなる。
それもこれも、全部『K.works』を守るためだ。

豊崎さんへの電話が繋がると、私は深呼吸をし、「ご相談があるのですが」と切り出すのだった。