いけないと思いつつ、私は男子トイレと女子トイレの中間に立って聞き耳を立てた。
トイレに入って行く人たちに怪訝な目で見られないよう、誰かを待っているフリをする。

「そうそう。結構美人」

戸川さんの声は相変わらず聞こえている。

どうやら高評価……。
ありがたいけど、一体誰に私の話をしているんだろう。

「ママとの同居も了承済だよ」

ん……?
“ママ”……?

「大丈夫、ママの介護もしてくれる」

待って待って!

電話の相手って、もしかして戸川さんのお母さん!?
婚活の結果報告ってこと?
ママ……? ママ……?

「今までの女と違って自立してるし、仕事も続けたいって言ってるから金目当てでもないよ。秘書だから世話好きだろうし、子育てとか介護にも向いてる。この子に決めようかなって思ってるよ。まだ成約はしてないけど、まあ俺の条件なら断らないでしょ」

声が漏れないように手で隙間なく口を塞ぎ、私は壁に貼り付いて息を止めていた。