彼に押されて私も目を細めたところで、今度は玄関のドアが開く音がした。
続いて靴の音、まだ遠くだが「おはようございまーす」という若林君の声がする。
正気に戻った。
私と都筑さんはあと数センチの距離で固まると、どちらからともなく体を離した。
そのタイミングで、若林君がこちらへ顔を出す。
「お疲れ様です。……なんかありました?」
若林君が首をかしげるのも無理はない。
私の見ているスケジュール帳は上下が逆で、都筑さんが手に持ってデスクに走らせようとしているのはボールペンではなく油性マジックだ。
それでも若林君は、全く隠しきれていない不自然な空気を見てみぬフリをしてくれて、さらに彼も気まずそうにしながら席へとついた。
助かった……。
あのままじゃ流されてキスしそうだった。
仕事中に、しかも職場でこんな変な雰囲気になるなんて私ったら迂闊すぎる。
それに都筑さんも。朝イチで問い詰めてくるって何なの!
落ち着かなきゃ。