「強くないですよ。本当はかなり怖いです。」
長谷部さんはそう言ってもう一度鈴の方を見た。

「このまま二度と彼女に会えないかもしれないと思うと怖くて仕方がない。」
「・・・」
「彼女と離れて家に戻ってからも、毎日考えるのは彼女のことばかりでした。一人で、海岸から海を見つめていると、隣で彼女も海を見ていた姿を思い出すんです。でも、そこに彼女はいない。」
俺は鈴が姿を消してからの自分をおもいだしていた。


俺はメディアに露出するのは嫌いだった。
極力、露出するような仕事は断り、作曲だけに集中できるようにしていた。

でも、鈴を見つけるために、俺からは鈴が見えなくても、鈴からは俺が見えるように、露出する仕事をありったけ引き受けた。
作曲する曲の中には必ず鈴への想いを込めていた。

ほかの誰にも分らなくても、鈴が聞いたらすぐに俺の曲だとわかるはずだ。そして鈴への気持ちを込めていると伝わるはずだと思っていた。

街を歩いていると、いたるところで鈴の面影を探しては人違いをして、その度に喪失感が増していた。