『ザクッザクッ』
砂浜を歩くその足音で私はその足音の主が誰なのかが分かる。

足音は私のすぐ横で止まり、私が視線を向けるとそこには私の唯一知る人物がいた。

その横顔も夕日に照らされる。

何も言わずに私の横に立ち、ポケットに手を入れて同じように海を見つめるその人は

長谷部恭(はせべきょう)。

2年前に私を見つけて病院へ運び込んでくれた人物だった。


何も言わない”恭”に、私も何も言わない。

私たちはいつだってそうだ。

言葉が必要ない時間がある。