本当は このまま 香山さんの胸に 飛び込みたい。

でも 浩太と会った後の私は 何か 薄汚れているような気がした。


せめて一晩。

今夜 麻衣と話して 自分を浄化しよう。
 

それに 万が一、浩太が 引き返して来たら。

私の嘘に気付いて。

アパートに来ることも 用心した方がいいと、麻衣は言った。
 

さっきの 浩太の様子では 疑っている気配は なかったけれど。

自己中だから。

私の実家に 連れて行かれることだけ 気にしていた。


でも 用心は必要だから。
 

だいたい 私の実家は 葡萄農家ではないのに。

そんなことも 浩太は知らない。


私は 山梨の出身で。

以前浩太は 私のアパートで 葡萄を食べたことがある。

実家から 送ってきた葡萄だと 私が話したから。
 


だから私が 葡萄農家を継ぐと言った言葉を 浩太はそのまま信じた。

その程度しか 私に興味がないから。

真実かどうか 確認する材料も 浩太にはない。