「私 好きとか よくわからなくて。だから 会えなくても 全然平気でした。今までは。」

私は いけないことを言っている。

ハッとして 口を閉じると、
 

「ユズちゃんは もう 言わなくていいよ。」


と香山さんは言った。
 

「俺も 独占欲とか なかったなあ。彼女が 自由に 遊んでいても 全然 気にならなかったんだ。逆に 自分の時間ができて 都合よかった。」


香山さんは ゆっくり ボートを漕ぎながら 話してくれる。


私が小さく頷くと


「まあ だから 二股かけられたんだけど。彼女にしてみれば 物足りなかったよね。今のユズちゃんと 同じだよ。」

香山さんは 自虐的な笑顔で 言った。
 


「多分 違うと思う。香山さん 優しいもん。彼女が 香山さんを 大切にしなかったんじゃない。」

私は 自分のことのように ムキになって言った。
 

「ありがとう。ユズちゃんこそ優しいよ。でも 俺も 彼女に 本気じゃなかったんだ。だって ユズちゃんにみたいに 今すぐ会いたいって 一度も 思わなかったもん。」

香山さんは 真っ直ぐに 私を見た。
 
「こっちに座る?」

香山さんは 腰を 少しずらして 隣に 私の座るスペースを空ける。

私は 座ったまま そっと 香山さんの隣に 移動した。

香山さんは 私に オールを一本渡す。
 

「多分 俺 今初めて 恋している。ユズちゃんには すぐ会いたくて。ずっと 一緒にいたくて。これが 好きってことなんだね。」

香山さんは 左手で 私の肩を抱いた。

私は 心臓がバクバクして 顔を上げることが できない。

俯いたまま 小さな声で
 
「私も。」

と言ってしまう。


言わなければ いけないと思った。

私も 伝えたいと。
 

「可愛いな。俺 見切発射 しちゃうかも。」

香山さんは そう言うと 私の頭を 自分の肩に 抱き寄せた。