「触んなよ」


「……どけ」



あ、この声……。なんで……。



「お前が生まれてから――は……」



うわ、なんだこれ。



「ギャーギャーギャーギャーうるっせえんだよっ!!」



色んな声が……。



「優子、大好きよ」


「ちったあ黙れねえのかっ!?」


「大丈夫だからな」


「お前のせいで……」



嫌だ、やめて……!



「俺が守ってやるから」


「黙れっ!!」


「邪魔」



うるさい、うるさい、うるさい……!



「――あんたのせいよ!」



───
─────



「っ! ……はぁっ、はぁっ……はっ……はっ……」



うわー、嫌な夢見た……。


額に手をやると汗をかいて前髪が張り付いていた。
時計を見ると、まだ午前4時だ。


顔洗お……。


私は隣で寝ているユウを起こさないように気を付けながら、ノロノロと立ち上がって洗面所へ向かい、冷水で軽く顔を洗う。


達弘のことは好きだった。
そう、初恋だった。

ふわふわとした、愛情と呼ぶにはまだ物足りない、憧憬が少し混じったような、そんな感情。
でも好きだと思う度に体がむず痒くなるようで、確かに彼のことを好きだった。中学生らしい歩幅で着実に恋愛をしているつもりだった。


でも結局あんな奴で。



『何これ……ねえ、達弘……?』


『何って、見れば分かんだろ? お前さあ、つまんねえんだよ。付き合ってたらやることなんて1つだろうが』


『でもまだ私達中学生……』


『そういうとこだよ。合わねーよな。つーわけで、楽しませてよ優子』



見る目が無かったのかな。



『すぐヤれそーだったからさ。ちょっと優しくしたらすぐ落ちちゃって可愛かったぜ』



そんなこと言われて当たり前にショックだった。

それなのに何でか涙は出なくて。

酷く苦しいのに涙は一滴も溢れなくて、私は冷たい人間なのかなって思ったっけ。


そんなことを考えながら、私は顔を拭いた。