「あれ、覚えててくれたんだ? 嬉しいね」



別に覚えていたくてそうしたわけじゃない、と反論したかったが喉が氷のように固まっていて何も言葉を発することが出来ない。



「あははっ、あれー? あの優子サマが怯えてんのー?」



何だ、“優子サマ”って。そんな風に呼ぶ人も居ないし、裏で呼ばれてたわけでも無い。



「大丈夫だから、そんなに構えないで。今日はちょっと、また丁度良い女紹介してもらおうと思ってただけだから」


「“また”……?」


「ははっ、そうだろ? あの時翠(みどり)を紹介してくれたからしばらくは飽きなかったし。だからさ、今回もよろしくな?」



そう言いながら半歩分近寄ってくる達弘に、私は後ずさる。



「翠のこと、そういうつもりで紹介したわけじゃ……」


「あれ? そうだっけ。まああいつは楽しんでるし、良かったんじゃねーの?」


「っ……」



そしてまた一歩、彼がこちらに来る。



「だからさ、な?」


「無理っ……」


「は? 無理? 何で」



“何で”という疑問詞を口にしている筈なのに、彼の口調は尋ねているのではなく、完全に脅しだ。
私が黙っていると痺れを切らしたように迫ってくる。



「女教えらんないなら……お前が、相手してくれるしかないなあ?」



その言葉に、私は更に身構えて後ずさる。
それを面白がるように達弘は更に距離を縮めてくる。



「やっ……! 来ないで……」


「ククッ、お前のそういう顔ほんとそそるよなあ」


「やめてっ! 近寄らないで!」



私の声は自分で聞いても怯えきっていて、情けなくなる。

達弘はそんな私を都合良く横にあった路地に連れ込もうとする。