「おい、レイ」



彼は私を追ってきていた。



「ユウ……何で」


「何でって……お前に愛想笑いなんて似合わないんだよ」


「は?」



答えになって無いけど。


とにかく、駄目なんだ。私は、あんな透き通った人と居ると自分がどうしようもなく醜く思えてしまう。

あんな風に嬉々として家族への愛を語る人と居ると自分が悪のように思えてしまう。

健気で一生懸命で眩しすぎる人は、私には猛毒なんだよ。

あの人を見ていると、毒に侵されて死んでしまう。



「喧嘩売ってんの?」


「ははっ、ごめんごめん。でも、なんか苦しそうだったから」



絶対にバレないくらい、上手く愛想笑い出来たと思ったんだけどな。ユウには敵わないや。



「……菊沼さんは良い人だよね」



でも私は、彼女を好きになれない。

彼女がとても素敵な人間だと分かっているのに。――いや、分かっているから、と言っても良いかもしれない。

そして、彼女を嫌悪してしまう自分自身に一番嫌悪してしまう。

私と彼女は交わってはいけない人種だ。



「レイも良い奴だろ」


「違う」



全然、良い人なんかじゃない。



「私はあんなに綺麗じゃない」


「綺麗だよ」


「違うっ」


「……どうして?」


「……」



黙ったままでいると、ユウは私を人目のつきづらい場所に引っ張った。



「ちょっと、ユウ!?」



その勢いで、私は彼の腕の中に収まる。



「何……」


「……お前は綺麗だし、良い奴だし、頑張ってる」


「……」


「頑張ってるよ」



ああ、やっぱり彼の腕の中は心地良い。