「はい! 父が倒れてから家族みんな死んだようになってたんですが、急に元気になりまして」
菊沼さんは良い人だ。家族のために自分の体を犠牲にしてまで働く、健気な娘。
そんなの、分かってる。
「母も普段は嫌そうにしてるのに、なんだかんだ好きなんじゃんって。やっぱり人って無くなってから大切なものに気付くんですね。……あっ、まだ父は死んでませんけど」
やめてってば。家族愛とか夫婦愛なんておとぎ話を私の前で語らないでよ。
「あははっ、とても素敵なご両親で」
「そう言ってもらえて嬉しいですー! 私も家族のためならどんな辛いことも乗り越えられるんだなって、今回学びましたよ」
そんな感情論、私はする気なんてないんだよ。“家族のためなら”? 笑わせないで。どこまで良いお嬢ちゃんなの。
「あはは、それは良かった。……あの、すみません。もっとお話していたいのですが、この後急に予定が入ってしまいまして。ここで私は失礼しますね」
私は出来る限り自然な笑顔を作って、彼女にそう言う。
「あっ、それはすみませんでした! じゃあ、また機会があれば」
「はい。失礼します」
彼女が不思議に思わないように、彼女の気分を害さないように気を付けて、私は店を出る。
ユウを残してきてしまったことを思い出したが、私が出てきてしまった今、彼女の話し相手に丁度良いからまあいいか、とそのまま帰ることにした。
――のに。

