「ん? ああ、気付いちゃった? そーだよ」



彼がサングラスを外すと見覚えのある瞳が露になった。


もう体を重ねたあの夜から3週間以上経つ。
久し振りに見た彼の顔は少し懐かしいとさえ思った。



「レイは本当に絡まれやすいんだねえ」


「そーだよ。ユウを含め、ね」


「あはは、そうだった。でもさ、あいつらの誘いには乗らないんだね?」



ちょっと意外そうにユウは言う。



「あんな人数の中に1人でホイホイ行くわけ無いでしょ。ていうか、今まで誘いに乗ったのユウだけだよ」


「そりゃ光栄だね。なんで?」


「顔がタイプだったから」



その答えに、ユウは笑う。それから「俺と一緒だね」と言った。


ああ、そう言えば前に私に声を掛けた理由を聞いたら「顔がタイプだったから」と答えたんだっけ。



「俺もレイだけだよ、誘ったの」


「えっ意外」


「意外と真面目なんですー」


「その見た目で言われても説得力ないわ」



今日のユウの格好は“チャラい”と言い表すのがぴったりで、初めて会った時の真面目な雰囲気とはまるで違っている。

でもこれはこれでユウに合っている気もした。



「ていうかさ、“マサ”って何? それも偽名?」



さっきの集団の人達に呼ばれていた名を思い出す。



「んー? ああ、そーだよ」


「好きだねえ、そういうの」


「まーね、あいつらとは今日初めて会っただけだし。もう会うつもりもねーし」



なんか、そうじゃないかなって思っていたから驚きはしない。



「そっか。あ、じゃあここで」



話している内に駅に着いていた。



「おう。じゃあな」



そう言って彼は別の線の改札へと背を向ける。



あの一夜だけ。それだけで、終わってしまえばもう他人。



そんな空気をお互いに発し、お互いに感じ取っていた。


だから今日会ったのも想定外で、もう会うことも無い。





――と、思っていたのに。