「ねえ、あの女の人って彼女?」


「えっ?」


「ほら、二人で花見してたじゃん」



私はベッドから起き上がりながら言う。



「は、お前居たの?」


「居たよ。で? 彼女?」


「っ、まあな。そうだよ」


「やるねえ。良いねえ、春だねえ」



京一を冷やかしながら寝室を出る。



「はあ? お前はどうなんだよ、レイヤと……」


「あ、ユウ! お腹すいた!」



リビングに行くとユウが何やらフライパンを持っているのが見えた。



「聞けよ!」


「あははっ」



京一の不満げな声に笑うと、ユウは私達を見て穏やかな笑みを浮かべた。



「仲直りしたのか」


「まあ……」



元々喧嘩してた訳じゃないんだけど。



「ね、何作ってるの?」


「んー? 焼き肉。もう出来るよ」


「じゃ、3人で食べよ?」


「そうだな。京一、皿出して」



ユウは振り返りもせずに京一に言い付ける。



「え、どこだよまず」


「ここだよ。使えないなあ、全く」



私はそう言いながら彼の横をすり抜け、食器棚から丁度良い大きさの平皿を三枚出した。



「いやいや、俺ここ初めて来たんだけど」


「ははっ、レイ、京一に当たり強いな」


「ふふっ」



笑い声が響く食卓。それは私が欲していたものだ。

やはり昨日の体験は怖かったのだろう。張り詰めていたものが急に切れて、京一が笑いかけてくれて、ユウが笑いかけてくれて。みんなで一緒のテーブルを囲んで、同じものを食べる。


あれ、ヤバい泣きそう。


止める暇もなく頬を伝った涙を、二人に気付かれないように拭う。

深呼吸をしていると、隣で中身を皿に盛り終わったフライパンを置いたユウが私の頭をポンポンと叩いた。


え、もしかして気付かれてた?


慌てて顔を上げると、ユウは何も言わずただ目を細めて笑う。


――ああもうほんと、好き。



「ほら、食べるぞー」



ユウの声を合図に、みんな急いで席に着く。



「じゃあ、せーの」


「「「いただきます」」」