タクシーの速度がやけに遅く感じた。

もっと速く、速く、速く!

赤信号で止まっていることにさえ苛立ちを感じる程。


そしてようやくビルに着き、俺は一刻を争って駆け出す。

ビルのドアは施錠されていた。見たところ他の侵入経路は見当たらない。ここから入るしかない。

このドアは内開きのようだ。作りも古いし、なんとかいけるか。

俺はドアノブ付近に右足を置き、反動をつけて……。


――バンッ!!


思い切り踵に体重をかけ、ドアを蹴破った。



「京一さん!」



中には若い男が何十人も居た。

全員清涼会の奴等だ。
そいつらは俺の顔を見て心底驚いたようにポカンとしている。

そりゃそうだろう。俺は三代前の総長の一番親しい存在だったのだから。

俺は一応族員では無かったし、もうそいつは族を引退したけど、まだ清涼会とは繋がりを持っておいてある。



「京一さん、丁度良かった。今いい女入ったとこなんすよ。一緒にどうです?」



そう、アキが話し掛けてきた。こいつは今の総長だ。


その言葉に急いで集団を見渡すと優子の姿を一瞬で見つける。
後ろから抑えられ、高田に首を絞められて、何やら液体を飲まされようとしていた。


――俺は一体何をしていたんだ。


その光景に、俺の中の何かが音を立てて崩れていく気がした。


俺はあの日、決めた筈だった。



――例え優子に嫌われようと、俺は優子を守ると。



それなのに――。