「死にたいと思ったこと、あなたにはある?」
「……ありません」
彼女は、私の答えに満足したように笑った。
「フフッ、でしょうね」
「――生まれて来たくなかったとなら何度でも」
「……」
そこで初めて彼女は動揺を見せた。
少し目を見開いて、それからまた悲しそうに睫毛を伏せる。
「あなたなんかに分かる筈無いわ。お前はあの女の娘なんだから」
彼女は一瞬唇を噛んでからそう言う。
その言葉はまるで自身に言い聞かせているようだった。
「あなたは自分が命懸けで産んだ子供を他の女に奪われる気持ちが分かる? 愛する人を奪われる気持ちが分かる!? あの女のせいで! あの女が全てを壊したのよ!!」
悲鳴に近い声だった。その声だけで、彼女の心が引き裂かれたのを感じた。
彼女の言う“あの女”とは私の母親のことだろう。
父親と母親と碧弥美さんの間には、何があったのだろうか。
碧弥美さんは荒い息を整えながら、自嘲気味に笑う。
そしてどこか諦めた瞳を近付けてくる。
「好きでもない、――ううん、大嫌いな男に体を開く気持ちが、分かる?」
ああ、この人は少し辛い経験をし過ぎてしまったんだ。きっと死んでしまいたいと思うくらい苦しかったんだ。
そう思うと、体が勝手に動いていた。
――ふわっ
「な、に……」
そっと彼女を抱き締めていた。

