「知ってる? 角膜ってね、十万円で売れるのよ」
「っ!?」
まさか……臓器売買……。
やっぱりこの人、ヤのつく……。
「それとも、肝臓の方が良いかしらね? お金にはなりやすいし……なんなら……」
久遠碧弥美は私の鎖骨の下辺りにしなやかな指をトン、と置く。
「――心臓、なんて良いんじゃないかしら?」
「――っ!!」
私が素早く身を引くと、久遠碧弥美はフッと笑う。
「そんなに緊張しないで? 今日はあなたとお喋りがしたかったのよ」
そんなこと言われて緊張するなって方が無理だろ……!
「あの……久遠さん……? は、どうして……」
「ああ、碧弥美って呼んで」
「碧弥美さんはどうして私を……?」
そう聞くと碧弥美さんの黒い瞳に捕らえられる。
碧弥美さんの瞳は漆黒だ。その長くて艶のある髪と同じ色だ。
――何故かそれを懐かしいと思う。
「私はね、あなたのお兄さんの母よ」
「……え……?」
一瞬、日本語が分からなくなったのかと思った。
「橘京一は、私が産んだの」
ん? どういうこと?
ちょっと待って、理解が追い付かない。
「京一の……?」
「あははっ、なーんにも知らないのねえ。あなたとお兄さんは半分しか血が繋がって無いの」
つまり、父親は同じ……?
私を産んだ母親はこの前死んだ薫で、京一を産んだ母親は碧弥美さんってこと?
ああ、だから碧弥美さんの黒髪を懐かしいと思ったのか。今は染めてしまっているけれど、京一は昔、美しいほどに真っ黒な髪と瞳をしていたっけ。
そう言われれば京一が私とは違って女子に妬まれるほど艶美な顔立ちをしているのも納得出来る。大きな目と細い顎がそっくりだ。
そんなことを考えていると、そっと碧弥美さんがこちらに身を乗り出してくる。
そして、彼女の唇がゆっくりと動いて――。
「――あの女の血を引くその間抜けな顔を、死にたくなるくらい苦しみに歪めてあげたいわ」
それは、ぞっとするほど……悲しそうで正気を失った笑み。

