「簡単なもんしか作れなくてごめんな」



そう言って彼が差し出した皿の上には、野菜炒めと目玉焼きとスクランブルエッグときつね色のトーストという、まさに朝ごはんのメニューが乗っていた。

2、3時間早ければ完璧な朝食だっただろう。



「うわあ、これあと3時間前に食べたかったー」


「文句言うな。起きてこなかったのが悪いんだろ?」


「えー起こしてよー。何にも言わないで起きちゃうとか酷い」



彼と少しでも長く戯れて居たかったから、そんなことを言った。勿論本心では無い。

いや……数割は本心だっただろうか。――側に居てほしくて、たまらなかった。

こんなに素直な感情が溢れるなんて、初めてだ。

側に居て、強く抱き締めてほしい。それだけで良い。それだけで良いから、ただ彼の体温を感じていたい。



「あははっ。俺の負けだ、悪かったよ」



降参、というように彼は言う。



「……でもお前、あんま寝れて無いだろ?」


「……っ」



何、急に。

そんな風に急に獲物を見定めるような目で見ないでよ。



「う……それは……」


「また寝るか?」


「え? それじゃ一日中寝てることになっちゃうよ」


「まだ二時間も寝れて無いだろ。今日も泊まっても良いから」



目を閉じてもずっと眠れてなかったことに気付いているのか。



「……別に」



――一人でも大丈夫。

癖でそう強がってしまう。



ああ、違う。こんな風な態度をとりたい訳じゃなくて。