「――ただいま」
「お帰りなさい」
そんな風に母親と話すことに苦痛を抱くなんて、間違っている。この感情は間違っている。
子供は親を慕わなければいけない。親を好きでいなくてはいけない。感謝しなければいけない。
それは最早遺伝子レベルで刷り込まれた常識で、私はその常識に上手くはまることの出来ない自身を責めることしか出来なかった。
「――ひっく……っく……」
「優子!? どうした!? 何かあった?」
昔から私のことを見てくれたのは京一だけだった。
「……っく、ひっく……ね、おにーちゃ……わたしがわるいの……? ぜんぶ、ゆうこのせいなの……?」
「……っ、そんなわけ無いだろ!? 何も悪くないよ。優子は何も悪くない」
「でもっ」
「俺の言うことだけ信じてれば良いんだよ――」
その温かな手に、私はいつも救われていた。
――なのに。
「お、お兄ちゃん……?」
中学生の頃だっただろうか。京一は高校生だった。
万引きや盗みばかりしている集団と偶然出くわした時、その中に京一の姿を見つけて私は自分の目を疑った。
「な、に……? どういうこと……?」
京一がそんな人達と繋がっているなんて、晴天の霹靂だった。
私を一瞥して去っていく京一。その冷たい目に、私の足は地面に釘で打ち付けられたように動かなかった。
それからだ。京一との関係が拗れ始めたのは。
「ねえ、お兄ちゃん。今日一緒に居たのって……」
声が震えないように必死だった。
京一は――またあの冷たい目をして、苛ついたように乱暴に言葉を並べる。
「何でも良いだろ」
私はその時初めて、京一の背中に知らないものを見た。

