さくらいろの剣士1

 「なぁ、さくら。」
1階の居間でシュークリームを食べながら、凌太が言った。
「何?」
同じくシュークリームを食べながら反応する。
おばあちゃんは優しい。
いつも美味しいお菓子やご飯を作ってくれる。ちゃんと話も聞いてくれる。
それは、私たちがこんな身の上だからかもしれないけど…。
そして何より、私たちはおばあちゃんの優しくて明るいところが大好きだ。
「今日の部内戦、ひどすぎだろ。」
「普通に本気で試合しただけなんだけど…。」
まぁ、確かに女子4人と連続で試合をして合計3分半というのは短かったかもしれない。
「でも、凌太だって、いっつもそんな感じでしょ?」
「そうだけどさ。」
凌太はシュークリームをほおばりながら言う。
「なんでそんなに強いの?って聞かれて、別にってなんだよ。ちゃんと答えてやれよ。」
「なんて言えばいいの?」
「正直に言えばいいんだよ。」
「正直って?」
凌太は会話が始まってから初めて私を見ながら言った。
「自分より大きい人に負けたくない、だろ?」
私は苦笑いする。
「よく覚えてるね。何年前の話?」
「5年前。」
そう言って、彼はシュークリームに視線を戻した。
 確かに5年前、小学3年生だった私は、当時の監督にそう言った。
個人戦の決勝戦で競り負けた私は、泣いて悔しがった。
「どうして勝てなかったんですか?」
そう尋ねた私に監督は言った。
「さくらは悪くないんだよ。でもね、君はあまりにも小さすぎた。」
「小さかったら勝てないんですか?」
納得できずにもう1度尋ねた。
そんな私に監督は諭すように言う。
「勝てないわけじゃないが、不利ではある。」
「不利?」
「そう。不利なんだよ。君は同級生の子たちと比べて10センチも20センチも小さい。だから仕方ない。だけど、君は十分強くなったよ。県で2位なんだから。」
そう言って優しく笑った監督に、私はあの言葉を宣言したのだった。
 そして私は宣言通り、1年後の同じ大会で「どうしても勝てなかった子」に勝って優勝した。
それから、私とその子が交互に優勝するようになった。
そして、「その子」とは、凌太のことだ。
「あの時は、監督を喜ばせたいってのもあったし…。」
これも本心だ。
「だから、そう言えばいいだろ。私は凌太に負けたくないって気持ち1つでこんなに強くなりました、って。」
「いやいや、絶対無理。信じてもらえない。」
「そうだろうな。」
そう思うなら、最初から言うなよ。バカ。
 凌太は私と2人きりの時は普通に喋る。