さくらいろの剣士1

 真新しい防具を身につける。
胴紐が硬くて、手が藍色に染まった。
青色がまだらに施された胴を見て、気持ちが沈む。
以前は、赤いまだらが施されていたはずの胴。
道着や袴の刺繍だって、赤色だった。
なのに、私の左腕にのっている文字は赤色の「海南」。
 波月くんの「面つけっ。」の号令で、一斉に面をつけ始める。
15秒ほどでつけ終えた私は静かに立った。
今までと同じスピードでつけたのに、私より早く立った人がいた。
凌太だ。
近づいてくる。やっぱり雰囲気が怖い。
黙って右手を出してくる。私も右手を出した。
そして、お互い拳どうしを軽くぶつけながら「ファイト。」と声をかける。
いつからかは忘れたけど、ずっと前から試合の前は必ず2人でそうしてきた。
それは、2人が選抜チームで味方同士の時も、決勝戦で戦う敵であっても変わらなかった。
中学生になり、男女別になってもそうだった。
でも、稽古の前にしたのは本当に久しぶりだった。
 他の人たちが面をつけて並び始めたので、私たちも並んだ。
海南は鈴鳴と違って、男子も女子も一緒に稽古をする。
彼が上座に立ったので、私はその下座に立つ。
1つ1つの動きを丁寧に、礼や蹲踞をして構える。
「切り返し、始めっ!」
発声とともに鋭いけど大きく振りかぶった面打ちが決まる。
続いて、周りとは明らかにレベルが違う切り返しが、私の竹刀を打つ。
音も声も力も、鮮やかだった。
最後に1本。残心をとって交代する彼。お見事。
でも、私だって負けない。
小柄な体をフル回転させて、切り返しを終える。
元の位置に戻りながら周りの声に耳をすます。
「あのちっさい体のどこからあのパワーが出るんだよ?」
「いや、パワーじゃないと思うよ。」
「じゃあなんだよ。」
「わかんないよ。私、あんなに強くないから。」
思わず声をかけそうになったけど、凌太が「早くしろ。」と目で言っているので慌てて戻った。