さくらいろの剣士1

 宮本先生が、全員に組み合わせ表を配った。
今日は大会じゃないから、他校とたくさん試合をする。
その数はなんと13試合。
こんなにするのに、対戦できるのはほんの一部だけだ。
審判も自分たちでしないといけない。
私は参加校一覧を素早くチェックする。
良かった。鈴鳴は来ていない。
無意識のうちに喜んでしまった自分が嫌になる。
でも、鈴鳴と試合をするなんて、もっと嫌だ。
大切な仲間と敵同士なんて、考えただけでもぞっとする。
「じゃあ、オーダー発表するぞ。男子はいつも通り。先鋒・米村、次鋒・坂上、中堅・正影、副将・三瀬、大将・波月。いいか?」
「はいっ!」
5人そろって返事をするのを聞きながら、心臓が激しく動いているのを感じる。
「女子は…」
来た。
「5人そろったから、次鋒の試合するぞ。」
「はいっ!」
乗り遅れた私を除いた4人が返事をする。
どこか嬉しそうだ。
「先鋒・高橋。」
「はいっ!」
変わってない。
「次鋒・松本。」
「はいっ!」
副将だった子だ。私が入ったから変わったんだ。
「中堅・白石。」
「はいっ!」
思わず顔を上げた。この子は大将だった。
「副将・森陰。」
「はいっ!」
中堅だった。
「大将・鬼城。」
「…。」
「どうした?不満か?」
先生が、驚いた表情で見つめてくる。
「白石さんが大将を務めるべきです。よそから勝手に入ってきた私では無理です。」
白石さんが、明るく笑う。
「実力は圧倒的にさくらが上なんだから、さくらが大将になって当然でしょ?」
みんなが頷く。
「でも、チームワークとか団結力が乱れたら困るし…。」
「チームワークは、今日から新しく作っていくんだよ。」
「だけどっ…!」
必死に食い下がろうとしたわたしを気にせずに、白石さんは続けた。
「大丈夫だって。みんな、それを望んでる。」
私は望んでないけど…。
「まぁ、そういうことだ、鬼城。今日1日頑張れ。」
「はい…。」
返事はしたものの、落ち着かない。
「白石さん、じゃなくて下の名前で呼んでよ。ほら、美咲ってさ、前みたいに。」
「うん。わかった。」
私の言葉を聞いて安心したのか、女子4人は開会式のために、走って整列しに行ってしまった。
仕方なくとぼとぼ歩いていると、米村くんが「頑張れよ、海南の大将。」ととささやきながら追い越していった。
「どうしよう…。」
そう呟いて何となく観客席のほうを見上げると、小さく手を振っている人が見えた。
「おばあちゃん…!?」
こんなに遠いのに、応援に来てくれたんだろう。
嬉しいけど、同時に困ってしまう。
だっておばあちゃんは、私が「enjoy剣道」をしていると思っているのだ。
常に、「凌太くんは強すぎるから、さくらちゃんは、女の子らしく頑張ればいいのよ。」
と言って応援してくれる姿が浮かぶ。
私の「女の子らしく」のかけらもない試合を観たら、どう思うんだろう?
いつの間にか隣に来ていた凌太に助けを求めようと、視線を送ってみたけど、ひきつった顔で笑うだけだった。
「女の子らしく、試合すれば?」
「絶対無理。」
私は、初めて自分の努力の証を呪った。