さくらいろの剣士1

6月の上旬、バスに揺られること2時間半。
地区予選直前の錬成会に参加するために海を越えて県外にやって来た。
誰とも話さないでいいように凌太の隣に座ったにも関わらず、容赦ない質問が私に刺さり続けた。
「鬼城ってなんの技が得意なんだよ?」
何が得意かと聞かれても、私が使う技は背が高いみんなが使うものとは違う。
お答えできません。
「正影くんと一緒に住んでるんでしょ?どんな感じ?」
お互い普通に喋ってるけど…。
「さくらって呼んでいい?」
昔はそう呼ばれてた気がするんだけど…?
 おかげでバスを降りるときには、すでに疲れていた。
もちろん、凌太も。
「なんであんなにうるさいんだよ?」
いつもに増して怖い顔。相当疲れたらしい。
「知らない。ってか、凌太、もっと話せばいいのに。」
「嫌だよ、そんなの。」
「どうして?」
「だって、今から1泊もしなきゃいけないんだぞ?わかってんの?」
わかってるけどさ…。
まだ慣れてないチームメイトたちと1泊しなければいけない私の身にもなってよ。
しかも、男女1部屋ずつしかない。
部員が少なすぎるからだ。
鈴鳴は20人もいたのに、海南はその半分。
せめて2人部屋がいい。
 今日、明日と使う大きな体育館に礼をして、中に入る。
思っていたより人が多くてびっくりした。
更衣室で着替えて、アップをするために防具をつけて並ぶ。
予想はしていたけれど、ほかのチームのひそひそ声が聞こえてきた。
「あれ、鈴鳴の鬼城じゃない?なんで海南なの?」
余計なお世話だけど、仕方ない。
強豪校なら、私の名前を知らない人はいないだろう。
「家の事情で海南に転校したらしいよ。」
「えっ!?マジでっ!?」
「鈴鳴、致命傷だな。」
「今年は海南が全中出場かもね。」
ひたすら自分の感情を抑えて無視するしかない。
イライラしていると「トントン。」と肩を叩かれた。
振り返ると、凌太が右手を出している。
私が拳を合わせると、同時に顔を近づけてきた。
「コツン。」と面がね同士が音を立てた。
「何?」
自分でも、顔が赤くなっているのがわかる。
たとえ相手が凌太だったとしても、こんなに男子と近づいたことはない。
上からの圧力とか、そういう問題じゃなかった。
「勝手に言わせとけ。さくららしくない。」
「らしくないってどういうこと?」
彼は、私から離れながら言った。
「取り乱してるとこ。試合ではいっつも誰よりも冷静なのに。」
ばれてたのか。
気づかれないように意識していたのに。
「よし。」
1人で気合いを入れなおして、凌太と構え合う。
いつも通り、切り返しを1セット終えて交代する時、凌太が言った。
「何1人で気合い入れてんの?」
やっぱりだめだ。
凌太は何でもお見通しだ。
小学生の頃から何にも変わっていない。
だから、信頼できるんだけど…。