聞きなれた音と、見慣れない場所。矛盾していて、怖くなった。それでも、ひたすら歩く。
角を曲がると、急に「その音」が大きくなった。それと同時に目の前に現れた建物を見つめた。
「剣道場」
少し迷ったけど、入らなければなんのためにここまで歩いてきたのか分からない。生徒用の白い靴を脱いで靴箱に入れ、入ろうとしたとき、急に声が聞こえた気がした。
「どうして?」
「一緒に全国大会出るって約束したじゃん!」
「さくらいないと勝てないんだよ?」
思わず後ろを振り返ったけど、誰もいない。当たり前だ。だって、その言葉を発して泣き崩れた仲間はここにいない。
いなくなったのは私の方なんだけど…。
「お願いします。」
一礼してから1歩踏み出した。
一瞬で私に視線が集まったのがわかった。
女子は「やったー!」と歓声を上げ、男子は「まさかうちに来るとは。」と前から知っていたくせに感心している。
このメンバーとチームを組まなければならないのだと思うと気が重い。
どうしたらいいのか分からずに困っていると、近くの扉が開いて、まだ若そうな男の人が出てきた。
この前まで違う畳に座っていた彼は、私を見ると「久しぶり。」と言いながら笑った。
私は黙って頷く。
男子の主将が「集合っ!」と号令をかけると稽古を中断して全員集まってきた。
面の奥に見える顔はどれも見たことあるものばかり。
バレないようにため息をついてから、淡々と話す。
「鈴鳴中学校から転校してきました。2年の鬼城さくらです。今日から海南中学校の剣道部に入部します。よろしくお願いします。」