朝から布団を引きっぱなしでずっと天井を見ている。

頭の中はごちゃごちゃだ。自覚してしまった自分の蒼大への気持ち、西くんからの告白、仲良さげな蒼大と影山さんの姿・・・。

───私は一体どうすればいいんだろう・・・。

「ねーちゃん。起きてる?」

中2の弟が部屋のドアを開けた。

「うん。どうした?」

「体調でも悪いのかよ?病院行ったら?玉子焼き、味なかったし。」

「うそ!?ごめん!」

基本的に毎朝お母さんと一緒にお弁当を作っている。今は春休みなので弟達も妹も給食がないから彼らの分も作っていて、学童に持って行ったり家で食べたりしていた。玉子焼きはいつも私が担当している。じゃあお父さんにもお母さんにも妹にも下の弟にも、味のない玉子焼きを食べさせてしまったのか・・・。ますますへこむ・・・。

「マジでどうしたわけ?こういうの珍しくね?」

弟はいつもそっけないのに、今は私のことを本気で心配してくれているようだった。

「体調が悪いわけじゃなくて・・・ちょっと悩み事が・・・。」

「悩み・・・?まさか、あいつのこと!?」

「え!?」

私は思わず起き上がった。

「・・・やっぱり、あいつねーちゃんのストーカーだったんだな。」

弟が腕を組み険しい表情で言う。

「ストーカー?(ふう)、ね、どういうこと?」

「昨日帰って来たら家の前に若い男がいたんだよ。で、『どちら様ですか?』って聞いたら『あの、お姉さんは?』って言われたから『姉の友達の人ですか?』って聞いたら『友達っていうか、その・・・』って言うから、『まさか、姉ちゃんの彼氏!?』って聞いたら『い、いや、そうじゃないというか、俺が一方的に・・・。』って言うんだよ。超怪しいだろ?」

「・・・ま、まあ、そう・・・だね。」

───まさか、ね・・・。

「『姉ならまだ出かけてると思うけど。姉の知り合いなら事前に今から家行っていい?とか連絡できたんじゃねえの?』って聞いたら『今携帯持ってなくて。』とか言うから、ぜってー怪しいと思って『友達でも彼氏でもねーなら、お前、ストーカーだな!?』って言って、携帯出して通報する振りして警察に繋がった演技したら逃げてったんだよ。ねーちゃんのこと追いかけるとか物好きな奴もいるもんだな。」

「・・・そ、そうだったんだ・・・。」

───まさか、でも万が一そうだったら・・・!

スマホを手にして一瞬迷ったけれどすぐその迷いは消えて、蒼大と一緒に撮った写真を弟に見せた。

「もしかして、それってこの人?」

「そう。こいつ・・・てか何この写真!?え?知り合いなの!?」

「ごめん、出かけてくる!」

驚いている弟にそう言って布団をはね飛ばすと、すっぴん部屋着のままお財布も持たずに家を飛び出した。



蒼大の家に向かう途中、信号待ちをしている時に電話をかけてみるが繋がらない。『今どこにいる?』メッセージを送ると青信号になったので走り出した。

蒼大の家の前に着いてスマホを見てみるけれどメッセージは未読のままだ。彼の部屋の窓は雨戸が閉まっている。

思いきってインターホンを押す。ドキドキして待ったけれど反応はなかった。しばらくその場にいたものの、夕飯の支度や妹のお迎えもあるし、帰宅することにした。




その日、深夜まで待ったものの、メッセージが既読になることはなかった。

昨日、明るいところで見た影山さんは、以前夜に会った時よりも更に綺麗だった。黒いTシャツにデニムというシンプルな服装が彼女の美しさを引き立たせていた。

そんな彼女と蒼大がとてもお似合いに見えて・・・気づいてしまった彼への想いを伝えたいという気持ちが今にも折れそうになっていた。でもその気持ちはまだ確実にそこにあった。

蒼大に出逢ってから私はいつも彼に幸せな気持ちをもらってばかりだった。あの時もっとああ言えば良かった、ああすれば良かったと後悔ばかりだ。

胸が苦しい。話がしたい。どんな言葉で伝えたらいいのかわからないけれど・・・。込み上げて来た不安がいつの間にか涙となって目から溢れていた。恋をしたら楽しいだけじゃなくてこんな気持ちも感じるんだ・・・。

涙が頬を伝っていく感覚を感じながら、あの日、蒼大の唇が映画に感動して泣いている自分の頬に触れたことを思い出す。彼と触れた直後はドキドキするばかりだけれど、その後に温かくてふわりとした余韻を感じた。

その余韻は今でも胸に残っていて、思い出すとなんだか力が湧いてくる。明日夕方には少し時間ができるはずだから、また彼の家に行ってみようと思った。