言おうかどうしようか迷う。でもこんなチャンスはなかなかない。『チャンス』なんて思ってしまった自分が恥ずかしくなった。


昨日のプラネタリウムの内容は全く覚えていない。爽乃のことしか考えていなかった。彼女が強く手を握り返してくれた時、気持ちが一方通行ではないんだと確信が持てた。嬉しくてたまらなくて、いつまでも上映が終わらないでほしかった。手を繋いだまま二人で星空に飛んでいけそうだ、なんてメルヘンなことを考えてしまっていた。心の中の自分は白けていたに違いない。

『今日もありがとう。私も同じ気持ちだよ。』

昨日帰ってから彼女が改めてくれたメッセージを何度読み返したことか。その後の『ポッ』と照れたペンギンのスタンプも目をつぶっても思い浮かべることが出来るくらいに見ている。


メッセージを一度打ち込んで送信せずに消す。今良い感じに進んでいるのにいきなりこんなことを言ったら引かれてしまうだろうか。

『明後日うちに遊びに来ない?』

送信してからドキドキして返信を待つ。すぐには返ってこなくて生きた心地がしなかった。何度も送信取消をしようと思ったが、その度に心の中の自分に『そんな弱気でどうする!』とビンタで気合いを入れられ思いとどまった。


しばらく経って既読になったものの反応はない。そうだよな、いきなりそんなこと言われても困るか。

『家族は旅行に行ってていないから気にしないで。今週末連休だし、父さんは会社員で母さんは喫茶店で働いてるからなかなか休み合わないけど頑張って合わせたらしい。早割っていうんだっけ?すごい前から予約すると安くなるプランでホテル予約してて。俺は受験がどうなるかわからなかったから行かないことにしてたんだ。まあ受験がなくても家族旅行はもういいかなって思うけど。』

やたら長文になってしまった。送信してから思う。旅行・・・大学入ったらバイトして金を貯めていつか爽乃と行けるだろうか。そうしたら門限とか気にせずにずっと一緒にいられるし・・・。

『お邪魔していいの?』

妄想を膨らませていると返信が来て俺は心の中の自分とハイタッチをした。

『俺が来てほしいんだよ』

食い気味で句読点もつけずに即返信をする。あ、少し時間をあけた方が良かったのか?でも、そういう駆け引き的なことは俺には無理だ。

『ホットプレートある?お好み焼きしない?たこ焼きもいいな。』

彼女の提案に心が躍った。興奮で震えそうな指で返信をする。

『ホットプレートはあるけどたこ焼きはないな。』

喜びで挙動不審な実際の姿とは裏腹に文字の上では俺は随分冷静だ。

『じゃ、うちからたこ焼き器持ってくから両方やらない?粉もんパーティー。』

『いいね』と打ち込むと自動変換で親指を立てた絵文字が表示されたのでタップして送信する。

『うちにお好み焼き粉あるよ。他にも使えそうな材料あったら持ってくね。たこ安いといいな。』

ああ、わくわくする。爽乃といると本当に楽しい。

『荷物多いだろ?家まで迎えに行こうか?』

『大丈夫。スーパーで待ち合わせにしよう。』

時間を決めて携帯を置いてからしばらくじっと天井を見つめ喜びに浸る。

マイペース過ぎる俺達を誰かが見たら笑うかもしれないけれど、構わない。少しずつ手探りだけれど俺達の心の距離は近づいている。そう自信を持って言えるのだから。

彼女と交わした言葉も、一緒に行った場所も、一緒に食べたものも全てが大切なように、俺にとっては今の二人のこの微妙な距離感もかけがえのないものだった。