「早乙女さん、楽器運んじゃお。」

「はーい。」

けいに言われ、私は用意してあった楽器とバックを肩にかける。

親に買ってもらった、愛用のトロンボーン。

この子は私の親友だ。

大事に扱っている。

「そんなに楽器愛でてると置いてくよ。」

「あっ、待って!」

けいの隣に並ぶ。












「同じクラスになれたね、美玲。」

「ね!めっちゃ嬉しい!」

「それは学指揮として?彼女として?」

「…どっちも。」




そう。私とけいは実は恋人同士。

普段は“仲のいい学指揮と金管セクション”に留めているが、2人きりになると、(自分で言うのもなんだけど)マンネリを知らないリア充になる。

隠してはいるが、2人の役職が役職なので、部長であるりんにはこの事を伝えている。



「ってか、さっきハモっちゃったね。」

私は話題を変えることにした。

「あれは僕もびっくりした。」

「低音はほんとに楽器運び大変そうだからね。」

「階段とか特にね。」

2階にある音楽室から渡り廊下を通って体育館に行くには必ず階段を使わなくてはならない。しかも、楽器ケースは体育館2階の卓球場に置いているため、結局また階段をつかうことになるのだ。

「そう思うとりんとゆうすごいよね。」

私が素直な気持ちを述べると、けいが明らかに不機嫌な顔をする。

「けい?」

「……ゆうのことほめた?」

「えっ、まぁ、低音奏者として…」

「そっか」

どこか様子がおかしい。

「けいもしかして……妬いた?」

楽器を卓球場の床に置きながら尋ねる。

「そうだって言ったら?」

「えっ」

自分の大事な友達に対してでも、付き合って半年以上経ってても、ヤキモチをやいてくれる。だから――


「素直に嬉しいかな。」

「…は?」

けいが(頭大丈夫か)という目で私を見る。
なので説明することにした。

「だってさ、妬くって、その人に対しての独占欲とかあるからこそ生じることでしょ?だから、なんというか、けいからの愛を感じて、嬉しくなった。」

そう言ってけいの顔を見て、後悔した。


――この男、なにか企んでる。

「じゃあ、美玲からの愛も見せて?」

「……え?」

「ほっぺたよりおでこがいいな」

「…ここで?」

「妬かせたお仕置き。」

「…わかった。」


そう言って私は背伸びした。


ちゅっ


学校で自分からキスする日が来るとは…


「ありがと。」

けいはすごく満足そうだけど。

「あ、もうすぐトロンボーンのみんなが来そうだよ。」

そう言われて体育館の入口を見ると、トロンボーンパートのみんながいた。

「けい、あとでね??」

「はいはい。(笑)」


私は楽器を綺麗に置き、みんなが来るのを待った――