♪♪♪♪

本日、4月14日。

スプリングコンサート当日です。

「そこ!シート綺麗にしてー!」

マイクを通したりんの声が飛び交う。






ここは体育館。

けいにお願いして作ってもらったセッティングの振り分けと私のつくったタイムテーブルのもと、セッティングを進めていた。

上川先生が来て学校を開けてくれ、今設楽先生が来たところだ。

…そういえば。

後輩に指示を残した私は、設楽先生の元へ駆け寄った。

「設楽先生、おはようございます」

「早乙女さん、どうしました?」

――これが世にいう『イケオジ』なのか?

設楽先生は悪くない顔立ちをしている。

もちろん好きなのはけいだけど、設楽先生のルックスもまた違った良さがある。

「谷先生が来るのってやっぱ10時でいいんですよね?
昨日話したタイムテーブルに沿わなくなるので一応」

すると設楽先生は驚きの回答をした。

「それなんだけど、もう谷先生来たみたい。」

――え?

「今9:10ですよね?」

腕時計を見つめると、やっぱり時刻は9:10。

「まぁ谷先生だから。」

そういって設楽先生は苦笑する。

谷先生と設楽先生はどうやら大学時代の先輩後輩という関係らしく、設楽先生がうちに来たのもその縁だ。

……性格合わなそうだけど。


「ところで、セッティングはどうなってますか?」

考えていたところで、設楽先生に聞かれた。

やばい。世界変わってた。

「まぁ、8割方終わりました。
そろそろ暇な子を音楽室に戻そうとしていたところです」

現状だけ伝える。

「わかりました。ではその指示を出してください。私は谷先生に挨拶してきます」

「あ、でもセッティングも予定より早く終わりそうなので、谷先生とのリハを早めにして他の曲をやりたいなって思ったんですけど」

ふと考えたことを提案してみた。

「では、リハの開始は何時にしますか?」

え、それ委ねるの。

「そうですね。まだ音出しはしてないので9:40が妥当かと。」

私がそういうと、設楽先生は微笑んだ。

「いいですよ。谷先生には伝えておきます」

…この人、怒る時と優しい時違いすぎ。

「お願いします」

軽くお辞儀をすると、設楽先生は渡り廊下を歩き出した。

――さて、指示するか。

私は体育館のステージに登り、りんにマイクを借りる。

「聞いてください。谷先生がもういらしています。セッティングも皆さんのおかげで早く終わりそうなので、チューニングを終えた上での谷先生とのリハを9:40より開始します。仕事の終わった人から音楽室に戻り、音出しを開始してください。」

「「はい!」」

そう言った瞬間、何人かの子が歩き出す。

「あの子ら移動無駄に早くない?」

「きゃっ!!」

驚きのあまり声がでる。

振り返ると、ゆうが立っていた。

「何驚いてるん」

ふう、心臓に悪い。

「あのね、いきなり背後から声かけられたらビックリするから普通。」

私がそこまでいうと。

「僕でも?」

「ひやぁ!!」

またかよ。

2連続の攻撃に驚いていると、けいが耳元に囁いた。

「何ゆうにイタズラされてるの?
その権利は僕だけなんだけど。」

…んもぅ!なんで今!?

恐らく私は顔が真っ赤になっているだろう。

2人になんと説教しようか考えていると、声が降りかかる。

「そこの思春期男子、美玲を困らせるのはやめなさい。」

りん!!女神!!

ただひたすらに感動していると、下から声が掛かる。

「そうだよ、みんな注目してるしね?」

下からといっても、あやは背が大きいのでそこまで下ではないが。

…?注目?

体育館を見渡すと、みんな一部始終を見ていたのだろう、キャーキャー騒いでいる。

――男子2人、後で覚えてろよ。

私は2人を睨む。

そうすると、2人は言い訳を始めた。

「ごめんね、美玲。ちょっとした出来心。」

ほんとか、ゆう。

「学指揮の可愛い姿みたくてさ。」

彼女を公共の場で口説くな。

私の怒りは沸点に到達し、なりふり構わず叫んだ。

「けいもゆうもふざけんな!!真面目に仕事してる時に邪魔しないで、普通に迷惑!
それに2人とも私が耳弱いの知ってるでしょ!もう知らない!りん任せた、あや、戻ろ!」

「え、ちょ、美玲!?」

呆然とする2人をおいて、私はあやの手を引っ張り音楽室へ戻った。

(絶対に許さん!)

しかし、お昼休みに謝ってきたゆうとけいをいとも簡単に許してしまうのであった――