「すまない、ケンタ」

渋谷のカフェでシュウはケンタに深々と頭を下げていた。


「いいって兄ちゃん、しょうがないじゃん」


「いや、本当にすまない、今回はお前に約束してたのに…」


「いいってば、今回の映画が実質兄ちゃんの初監督の映画でしょ?
主題歌まで決められるわけないって!

ましてやオレみたいなインディーズでもCD出したことない奴の曲を映画の中に使えるはずないじゃん」


「…ケンタ」



「マジ気にしないでよ、あ、兄ちゃんの荷物兄ちゃんの新しいアパートに送っておくね」

あくまで笑顔でそう言い残し、店を出たケンタは意味もなく山手線に乗った。




-何も考えたくなかった-

ただ自分が情けなくて涙がボロボロと溢れた。


シュウに負けない程努力はしたつもりだった。


シュウの成功を誰よりも願っていた。


努力は必ず報われると信じていた。


悔しくて、虚しくて、ただただ溢れてくる涙を止めることができず、子供みたいなしゃっくりをあげていた。




そしてその日からケンタの「夢」への熱は一気に冷めていった。