今までがんじがらめに心を拘束していた鎖が、いつのまにかカシャンと錆び落ちたような感覚。


どうして突然どん底から立ち直れたのか、確かな原因は今でもわからない。


だけど間違いなくその日から私は、古い殻から這い出て新しい私になった。


今まで時間の無駄だと思っていた趣味に没頭してみたり、友達と放課後連日のようにカラオケ、喫茶店、ゲームセンター、映画館等々に遊びに行くという超青春っぽいこと(?)を体験するようになったり。


腰まであった髪も首の付け根あたりまでばっさり切った。メイクも薄くだけどするようになった。髪は黒が好きだから染めなかったけど、制服のスカートは思いきって短くしてみた。


そう。私は少しグレたのだ。


今の私の高校生活…もっと大袈裟に言えば「人生」は、今までで1番充実している。


そんなグレることに成功した私が、今再び真面目モードに戻り勉強しているのは話の流れ的におかしいと思われるだろう。


さっきも言ったけれど、これはもう癖だ。


染み付いて洗濯してもなかなか取れないシャツの醤油染みみたいな癖。


だからって過去の癖に縛られて苦しみながら勉強してるわけじゃない。


前よりもずっと気は楽で、ちょっと楽しいとさえ思ったりして。


とにかくやりたくてやっていることなのは間違いない。


2カ月半ここにいただけで、私はすっかりここの“異常”な空気を吸収してしまった。


この学校はとても変だと思う。いる生徒も、学内の風景も(落書きばかりで傷だらけだし)。


もしかしたらこれからもっと変だと思うこと、当たり前じゃないことを、ここで経験することになるかもしれない。


私を成り立たせている「常識」がもっと崩れるようなこと。


まあ、これ以上なんてないだろうと、今は思っているけど―――。


「――、―――」


ふと一瞬、誰かの話し声みたいなものが聞こえた気がした。


私は足を止め、教科書から顔を上げる。


外から聞こえたにしては近かった。なら、どこかの教室から?


通り過ぎたばかりのC組の教室をのぞいてみる。


全く整頓されていない机や椅子。落書きだらけの黒板と壁。生活感はあるけど人の姿はない。


次のB組ものぞく。いない。


となるとA組の……私の教室からだ。


今日も誰も残ってなかったはずだけどな…。私が職員室に行ってる間に誰か来たのかな?


私は無意識に足音を忍ばせ、忍者みたいに戸に張りつく。


自分の教室なんだし、堂々と入ればいいんだけど……人が少ないとちょっと緊張してしまう。


さっき学校に慣れてきたとはいったけど、クラスメイトと一対一になれるほどまだ私の度胸は据わってない。


なにせ相手はギャルか不良のどちらかであるには違いない。教室で二人きりはまだきつい。


ていうか、怖い。