どんっ。
背中に強い衝撃を感じた途端、体が宙に浮いた。

一瞬訳がわからなかったが、すぐにわかった。

強い衝撃と共にだんだんと暗くなってくる視界。あぁ、あの時話してればよかったなぁ。

目が覚めると、白い天井が目に入った。点滴から出ている管が私の腕に繋がっている。

重い頭をゆっくりと動かすと、お母さんが私を見ながら泣いていた。

お父さんも涙目になっている。

初めて見たな。お父さんの涙。

それにしてもなんで泣いているんだろう。

私なんかのために泣かないで。

だって私は......。


誰もが一度は経験している。

その経験は人によって変わってくるだろう。

簡単にゴールしてしまう人やゴールできない人、もしくは途中で諦めてしまう人。

もちろん人それぞれの観点があるからどれがいい、どれが悪いなどは判断できない。

でも、自分の人生なのだからいい方向に持っていきたいと思うのは誰もが同じだろう。

あなたにはずっと笑っていてほしい。苦しい思いなんてしてほしくない。

あなたの瞳にはずっと私が映っていたい...ずっと一緒にいると、こんな思いがどんどん増えてしまう。

でも、増えれば増えるほど自分を苦しめるだけだ。

それでも、やっぱりあなたを目でおってしまうのはあなたのことが好きだということ。

この気持ちは自覚するのが難しい。

慣れている人はすぐに気づくのだろうけど、私は違った。

全然うまくいかずに空回りばっかり、あげくのはてに諦めてしまう。いままではずっとそうだった。

でも、これからは違う。

だってうまくいかないのが恋というものなのだから。


*はなひらくとき*


私は伊桜凪沙〈いざくら なぎさ〉高校二年生。

最近は三年生の卒業式の準備のせいで少し充実している。

なぜかというと、私が帰宅部だからである。

帰宅部だから暇だろうって勝手に決めつけてプリントを運んでくれと言われた。

嫌だなぁ。早くあそこに行きたかったのに。

文句を言いつつも断れないのが私。早く終わらせよう。

ため息を一つついたあとプリントを持ち上げようとしたけど、重すぎた。

一緒に運ぶとか言ってた先生はどこ行ったのよ。

この量はさすがに一人じゃきついかな。

そう思いながら、腕を捲り上げもう一度トライした......いけた!持てた...けど、前が見えずらい。

横から覗けばなんとか行けるだろうと思い、あしで扉を開けて教室を出た。

職員室はこの廊下を真っ直ぐ行けばつく。1歩ずつ慎重に歩きだした。

ここまで順調だったのに、窓が空いてることに気がつかなかった。

風が吹いてプリントが飛ばされる...だけで済めばよかったものの、窓から二、三枚飛んでいってしまった。

ここは2階だから走れば追い付く...はず!持っていたプリントを床に置き、近くにおいてあったじょうろを重りがわりにして飛んでいかないようにした。

幸い、風か吹かないような隙間に挟まっていた。

よかった、

そう思いプリントを拾ったが、二枚しかなかった。あと、一枚足りない。

辺りを見渡すと、すぐそこに落ちていた。はぁ...見つからなかったらと思うと...。

プリントに手を伸ばすと、私よりも先に誰かが拾って、渡してくれた。

お礼を言おうと顔を上げたけど硬直してしまった。

...そこにいたのは男の人だったからだ。

私は、男の人がとっても苦手だ。

具体的にどこと聞かれても答えられないけど、強いて言えば、声と態度が凄まじく怖い。

でも、拾ってくれたのだからお礼は言わなきゃ。

あっ、そうだ。

私は生徒手帳を取り出して、そこにシャーペンで
「ありがとうございます」

と書いて男の人に見せた。

すると、男の人は太陽のような明るい笑顔で笑いながら言った。

「どういたしまして。でも、なんで敬語なの?俺たち同級生でしょ?」

「えっ?」

驚きのあまり声が出た。知らなかった。

「もしかして知らなかった?」

うっ...図星だ。

「俺は、如月 泰一〈きさらぎ たいち〉覚えといてね。」

彼はそういうとプリントを渡して

「またね!」

と言って走っていった。

なんだろう、顔が熱い。熱でもあるのかな?

凪沙は、三枚のプリントを持って階段を駆け上がった。

うちの学校には階段の途中に鏡がある。

その鏡を見て、驚いて立ち止まった。

そこに写っていたのは、タコみたいに顔が赤くなっている私だった。

え?なんで?

慌てておでこに手を当ててみたら、少し熱いような気がした。

さっきからそうだったのかな...恥ずかしい。

凪沙はプリントを何回かに分けて運ぶことにした。

運んでる最中に、さっきの男の人の笑顔を思い出しては顔を赤くしていた。

プリントを運び終えると、一緒に運ぶといっていた先生がやってきて、

「もう終わったのか」

と言ってきたが、頭を下げてそそくさと帰った。

なんだよその言い方、と頭のなかで突っ込みをいれながら。

家に帰ってもきっと誰もいないだろうな。

そう思った瞬間くるっと向きなおり、家とは逆の方向へ歩いていった。