ーーガタンッ……!

よろけて箪笥に背中を預けたらやけに分厚い物が降ってきて僕の頭を突撃して床に転がる。
ピラリと同時に落ちたように見えたので咄嗟に辺りを見回した。
赤茶けた紙が無造作に四つ折りされているものに気づいた。
落ちたのは多分、これに間違いないだろう。

「大樹、いる?」




縁側から叫びながら来るのは兄の高広の声だろう。


「いるよ」

元の物に戻すのもちょっと面倒だ。
開きかけてそのまま、床に放ってしまった。


「物好き」

「良いじゃん、べつに」

「良いものあった?」

靴紐を踏石で直す僕にジョーク混じりに兄貴は声をかけた。

「あとで もっかいくるわ」

「ふーん、俺も来ていい? ばばぁがウザイんだわ」


容姿に釣り合わない言葉をさらりと言う彼は結局、腹黒い。だけど、この性格は多分 僕しか知らないと思う。




その晩、眠れなくて目を開けると母親の姿はなかった。
耳をすますと下の部屋から祖母や祖父、親戚のおじちゃんたちの笑い声や話し声が途切れとぎれに聞こえてきた。

「兄貴」

「炭酸」

「コンビニって遠くない?」

「出世払いするから炭酸と電子タバコ」

「人使い荒いなぁ」

ボソボソ呟きながら街灯の下を歩いていたら電信柱と並んで立つエメラルド色の街灯の蛍光灯がオレンジ色や藍色、朱という色にシグナルを放っていた。

…お化け電信柱って未だ存在するんだ。



ぼんやりあるいていると遠く後ろにバタバタ…っとバイクの騒音運転が近づいてくるのを感じた。
数秒もしないうちに壁すれすれに寄っていた僕は背中から容赦なく射し込む強い光りに言葉を失っていた。

……

…………………………






え……?






足が鋤くんで振り向くことすらできなくて。