尻を掻きむしりながら隆之介は廊下を歩いて行った。

「どちらへ」

「雉打ちだよ」

「ごゆっくり」

クスクス…
彼はユーモアを交えて応えてくれる。男性は厠へ行くときには『雉打ち』、女性は『花摘』と言ったそうだ。
京ノ介は縁側に腰掛けて再び、空を見上げた。

ーー今宵は満月。

本当に美しいーー。




「美桜」

踊場を這いつくばって拭いている美桜の背中に声をかける。低くよく通る声は小さくてもすぐにとどく。すると、彼女は雑巾を桶にかけて座り直してこちらを向いた。

「はい!隆之介さん」

「…………」

くりんっ、としたぱちりとハッキリした瞳。
上向きに向いた長いまつげ。
色がしろくて……
うーん、上手い説明が見つからないが素っぴんでも可愛いって表現は確実だと思う。