皐月の空は低い。
寝苦しい夜に虫の声すら耳には届いてこない。

「…隣。良いかしら」

顔をあげると美桜がいた。
京ノ介は「どうぞ」とやわらかく笑って少しずれた。

「私のどこを」

え?ーー少し驚いて美桜は頬を染めた。

「私のどこをそんなに好いてくださるのか」

「優しくて真面目で…」

「話さなかったか? 私は遊撃剣士と名ばかりの集団に属して生きるためにその行いの見返りに給金を受け取っていた。
真面目でも優しくもない。
言い寄ってきた女につけこんでその娘をしがらみなく平気で抱いてしまう男でした。私は美桜さんをそんな眼で見たくありません」

「なら、正直に言います」

美桜は縁側に素足のまま降りて京ノ介の前に立った。


「……」

「一目観て忘れられなくなりました。」

「私は美桜さんの想いには添えません」