「ありがとう……助かったよ。迷惑かけたね……」


そう言って、私から財布を受け取った。


私がその場を去ろうとした時、


「ちょっと……待って……」


工藤様は、私の腕を優しく掴んだ。


「どうかされましたか?」


正直、私はその突然の行動に驚いた。


いつも物静かで、穏やかそうに見える工藤様の目が少し攻撃的だったから。


ちょっと怖い。


だけど、その全体から醸し出される恐ろしい程の色気に、私はその場から動けなくなった。


「君……松下 一花さんだよね?」


松下 一花(まつした いちか)、確かに私の名前。


名前を言われたことに不審な顔をしてしまったのか、工藤様が私の胸元を指さして、


「ネームプレートに……」と、つぶやいた。


「あっ、はい。松下です……」


そっか、ネームプレートを見たからか。