絢斗もまた、言葉とは裏腹に、私を抱きしめたまま離さなかった。


複雑だよ、とても。


私達は、付き合ってる恋人同士じゃないのに。


「い、いえ。でも、絢斗にはきっと彼女さんもいるんでしょうし、こんなこと……ダメだと思います。私が彼女のフリをするのも、やっぱり変です。そういう話は、ちゃんと自分の彼女さんに頼んで下さい。ごめんなさい。私、帰ります」


絢斗を無理やり振りほどいて、私はバックを取って出口の方に向かおうとした。


「待って! 帰らないでくれ」


絢斗はそう言って、今度は後ろから私を抱きしめた。


あっ……


手につかんだバックが、スルりと床に落ちる。


絢斗の、この行動は、徹底的に私を動けなくした。


「バックハグ」、ずっとずっと憧れてたシチュエーション。


ダメ……心臓が、今度こそ破裂寸前だ。


「一花。俺には彼女なんていない、本当だ。だから、君に頼んでる」