「無理言って文化祭の日?休み取ったんだから、ちゃんと伝えなさいよ」
「…」
信号を曲がり、岸さんは車を停める。
「あ、でもマネージャーから言っとくけどスキャンダル的なことはやめてよね」
「何で?」
「何で、って…あんたはまだこれから先人気が伸びる。今が頑張り時なのよ、好きな子とか彼女作るのはいいけどバレないようにして」
岸さんは小さくため息をつくと、車のキーを抜く。
「はい、到着しましたよ。明日も朝早いから寝坊しないでね」
「はいはい」
「まったく…じゃあね」
車から降りて家の方面へ足を進めると、見慣れた人物が目に入る。
「やっほ〜」
「…葵」
「やっーと帰ってきた。遅いよ」
葵が家に来るなんて、滅多にない。
「なんで居んの?今日来るとか言ってたっけ」
「いや?いきなり来たから待ってたの」
「上がって待ってれば良かったのに」
「そんな長い話でもないからさ」
葵は立ち上がって制服の汚れを落とす。
「…直接言わなきゃいけない話なの」
「んー、別にそうでもないんだけど、はぐらかされそうだし」
「俺疲れてるんだけどー」
「俺彩ちゃんの事好きになったかも」
俺の言葉に被せるように聞こえた声。
驚いて葵を見ると、冗談を言っているような顔ではないと気づく。
