side柚月
「馬鹿だねー」
「…」
「ほんと馬鹿だね〜」
撮影帰りの車の中、マネージャーの声が響く。
「…うるさいな」
「無理やりキスするなんて、これまでの想い台無しにするようなもんじゃない」
唯一、俺の昔からの生い立ちを知っているマネージャーの岸さん。
今日の撮影に身が入ってないと怒られ、理由を聞かれたから話すと帰り道これだ。
「あんた、普段からあんま学校行けないんだから余計その子と気まずくなるわよ」
「…我慢できなかったんだよ」
彩にこれまで彼氏がいた事あるなんて、予想くらいはしてた。
ただ、それを本人の口から聞くと…歯止めがきかなかったんだ。
俺の部屋に2人きりなのに、もう今ではすっかり気を許して無防備な姿に余計イラついて。
「あら〜柚月がそんな事言うなんて。よっぽど好きなのねぇ」
「…昔から知ってるでしょ」
「会ってみたいわ〜その彩ちゃん、て子」
「やだよ。岸さん手出すでしょ」
「何よ失礼ね。あたしは女なら誰でもいいわけじゃないのよ」
岸さんは女だけど、大の女好き。
昔からそうで、男に対して嫌悪感を抱いており男っていうだけで毛嫌いするほど。
そんな岸さんが俺のマネージャーになって、仕事だからという理由で最初は淡々としていたがもう長い付き合いになる俺達。
岸さんも慣れたのか、俺に対して親のような視線を向けてくる。
「んで?気持ちは伝えるのよね?」
岸さんがハンドルを切りながらミラー越しに俺を見る。
「…気持ちって?」
「何言ってんのよあんた。好きだって伝えるのよ」
