押し出されるようにして、私はお客様のもとに向かいました。

「お待たせしました。お味噌汁を作った者です」
 まだフードをかぶったままのお客様は、私がテーブルに着いた時、またひと口お味噌汁を飲みました。
 フードのせいで全然顔が見えないんだけど、ほんとにおいしいって思ったのかな?
 訝しんでいると。
「相変わらずうまいな」
「相変わらず?」
 その声のトーンにドキッとしました。
 聞き覚えのあるバリトンボイス……。まさか、ね。はは。あのお方がこんなところにいるはずがない。
 冷たい汗が背中を流れていった気がしました。
「噂を聞いて来てみれば……やはりそなただったか」
「やはり?」
「しばらく会っていなかったから、余を忘れたか」
「『余』なんていう一人称を使っている人、竜王様以外に心あたりありません!」
 あ、いけない。思わず反射的に答えてしまった……。