28・町の暮らし
 モーブさんのお店は、いわゆる居酒屋でした。
「そうだねぇ……まずは名前を変えておいた方がいいね」
 モーブさんが提案しました。逃亡犯が別人になりすますってやつですね!
「レイラでいいですか?」
「微妙に変わっていていいんじゃないか」
「じゃあ、レイラで」
 って、こっちが本名だっつの。そもそも竜王様が聞き間違えて『ライラ』になったんですよね。なんかもう、遠い昔のような気がします。
「とりあえずホールに出るのは危ないから、裏方仕事を手伝ってもらうか」
「裏方ですか」
「そう。片づけや皿洗い、調理の手伝い」
「わぁ……それ私にやらせたらあかんやつです」
 片づけ。散らかす自信あり。
 皿洗い。この店から食器をなくす自信あり。
 どれもお城で免除されていた(というかお触り禁止)ものばかりじゃないですか。
「さすがになにもできないというのは言いすぎだろ」
「いや、それが本当なんですよ」
「じゃあまず、そこにある食材を片づけておいてくれるかい?」
「……やってみます」
 信じてもらえなかったようなので、仕方ない。善処します。
 根菜に、葉物。今日業者さんが持ってきてくれたものが調理台の上に置かれています。
「お城みたいに冷蔵庫ないからね~」