みんなして上空を見ていますが、例の花火は上がりません。もう終わっちゃったのかしら。あんまり長く厨房を離れていたらトープさんに心配されます。主に『なにか破壊していないだろうか?』という疑いから。
 もう上がらないのなら戻ろうと思った時でした。
 パンパンッ! となにかが上空で弾けました。
 え? 煙しか見えないんですけど? 私の知っている花火と違う。花火って、空に咲く大輪の花のイメージなのに、煙だけ!? しかも不思議なことに、いきなり宙で破裂したよね。地上から打ち上げて『ヒュルルルル~』って音とともに上がっていく、そんな前触れ的なものもなかったよね? たしかにメイドさんたちが言っていたような、火花のような花火です。
 煙だけって、まるで合図みたいな地味さ。……ん?
 合図……? あ、これ『合図』だ。
『合図』という言葉が浮かんだ途端、私は雷に打たれたような衝撃を覚えました。
 あれは、私に向けた『合図』だ……!