マゼンタが静かにお茶セットののったワゴンを押しながら、ふたりで竜王様のお部屋に向かっています。
「竜王様が怖くないの?」
 マゼンタが声を潜めて言いました。
「なんで? 全然よ? むしろどうしてみんながそんなに怖がるのか不思議なくらい。あ、そっか、高貴すぎて怖いとか?」
「まあ、それもあるわよね。私たちみたいな下級使用人には雲上のお方だもの」
「そうね」
 私の場合、気分は現代人(と言っていいのかな?)のままだから、竜王様の偉さがよくわかっていないだけかも。
 王様かぁ……。せいぜい私がイメージできるのはお金持ちの石油王とか、英国の女王様くらいなものだけど、それでも超絶雲上人。
「え、どうしよう」
「どうした?」
「今さらビビってきた」
「はあ? 本当、今さらね」
「わぁぁぁ。どうしよう」
「どうしようもこうしようもないでしょ。もう行くしかないんだから」
「わわわわわかった」