いつもの時間に 家に入る私。

「クミ。風呂 汲んでないのか。」


いつも通り 私よりも 先に帰っている栄二。

シャワーだけ浴びて 浴室から 出てきた。


「栄二。大事な話しがあるの。座って。」


「なんだよ。」


ビールを 出そうとする栄二を 止めて 私が言うと


栄二は 不機嫌に ソファに 腰を下ろした。



「今日限り 離婚したいんです。」


私は バッグから 記入した離婚届を 差し出す。


栄二の目は 動揺で 泳ぐ。


「何言ってるんだよ。」


「このまま 家を出ます。もし 離婚に 同意してくれないなら 裁判所に調停を 申し立てします。」


「子供達は どうするんだよ。」


「美由紀も直哉も ここには 帰ってません。」


「何、勝手にやってるんだよ。俺を 除け者にして。」


「栄二が 今まで 私達にしてきたこと よく考えて。みんな 我慢の限界だから。」


「俺は お前達のために 今まで 働いてきたんだ。家だって買ったし。文句 言われる筋合い ないよ。」


「それは 最低限 当たり前のこと。それがイヤなら 結婚したり 子供を作ったり しなければよかったの。」


「何言ってるんだ。3人で コソコソ 決めやがって。俺を舐めるのも いい加減にしろよ。」


「そんな風に 脅されて。ずっと我慢してきたけど。我慢って 限界があるものなのね。このままじゃ 私 心が壊れるから。栄二も 1人で 好きなように 生きてください。」


「ふざけんな!俺は 認めないから。」


「長い間 お世話になりました。フフ。私が お世話した方が 多いかな。弁護士さんを お願いしたから。改めて 連絡が来ると思います。お元気で。」


丁寧に 頭を下げて 立ち上がった私の背に

「覚えてろよ!」

と言って 栄二は 灰皿を投げつけた。



私は 振り返らずに 立ち去る。

背中に感じる 鈍い痛みは 解放の証しだと思った。