いくら放課後の校舎裏とはいえ、こんなこと。
本当にズルイ、けれど……キスはとても甘くて。
「ふっ、かわいい」
「……っ、意地悪」
頬が熱を帯びる。
そんな私の表情を見て、笑みを浮かべる悠くんは楽しそうで。
意地悪な人だと思いつつも、悠くんに抗えるはずがなく。
もう一度悠くんの顔が近づけられ、キスをされると思った私は目を閉じたけれど……。
「彩葉と清水!
早く来なさいよ!」
「……っ!?」
姿が見えなくなっていた由良ちゃんの声が聞こえてきて、慌てて悠くんを突き飛ばした。
幸い、由良ちゃんは私たちの様子を見に来なかったため救われた。
「あーあ、せっかくいいところだったのにな?」
焦る私に対して、悠くんは余裕のある笑みを浮かべて。
私ばかりが恥ずかしい思いをさせられているようだ。
「続きは家に帰ってからだな」
「……きょ、今日はダメです」
「なんでだよ」
「心臓が、もたないから……」
先ほどから胸がドキドキしてうるさくて。
おかしくなりそうだった。
「その表情、煽ってるようにしか思えねぇから気をつけろよ」
「煽って、る……?」
「我慢できずにキスしたくなる」
「……っ」
せっかく心を落ち着かせようとしたのに、悠くんはさらに私をドキドキさせて。
悠くんに敵う日は一生こなさそうである。
「でもさすがにそろそろ行かねぇと村本に怪しまれそうだな」
「そ、そうだよ……!
悠くんが変なことばっかりするから!」
「変なこと、か……」
「うっ……も、もう行きます!」
これ以上悠くんに心が乱されてしまうと、本当に壊れてしまいそうで。
今度こそみんなの元へと向かう。
もう過去に囚われて、弱いだけの自分じゃない。
悠くんの彼女として、みんなの友達として。
少しでも強くなるんだと心に決めながら、私は足を進めた。
END



