フードコートに向かう途中、突然黒羽くんが咳払いをした。



「んんっ」


「えっ?何?」


「いや、その...さあやにお願いがある」


「お願い?」



何でこんなに緊張してるの?


急に雰囲気変わりすぎ。


私が選んだ洋服の効果が出たのかな。



「手...手を...その手を...繋いでほしっほしい」


「はあ?!」


「そ、そんな拒絶するなよ。練習の一貫だ。頼むっ」



手を繋ぐって、それはさすがにダメだよ。


そのくらい練習しなくても1発で出来るでしょう?



「それはムリ。なんとかして」


「さてはおれとはやらずに紫雄とは繋ぐつもりだな?」


「ち、違うよ!そもそもしゅうくんはそんな強引に進めたりしないよ」


「じゃ、おれは紫雄とは違うから......強引にいく」



次の瞬間、私の右手が彼の左手の中に連れ去られた。


ぎゅうっと握られた右手が温かく、なんだか安心する。


振り払うつもりがすんなりと受け入れて、まだこの温もりを感じていたいと思ってしまう。



「ほんと、さあやの手は冷たいな」


「ごめんね、冷たくて」


「いや、いい。手が冷たいやつほど心は温かいって言うからな」


「そうなの?」


「そうだ。色んな人が言ってる。だけど、可哀想だから、おれが温めてやるよ」


「うん...ありがと」



こんなことで嬉しくなって、心がぽかぽかする。


繋がれた右手から伝わる温度を私はずっと探していたのかもしれない。


私の回りから皆がいなくなってからずっと。


だから今ここに感じる温もりを離したくないんだ。


私は不思議な感覚に囚われながら歩みを進めた。