ーーー救世主登場、ライバル出現??




お昼休み、購買でパンを3つと牛乳を買って視聴覚室に向かう。



今日は英語を教えてくださいと頼まれている。



受験生の頼みだから聞かないわけがない。


視聴覚室という名の英語の教材ばっかり置かれていて、「誰も使わないから、使っていいよ」と言われて私の部屋になりつつある。



パンを早く食べて、生徒を待つ。


来たのは3人組の男子生徒。でも教科書を持ってない。


「みんな教科書は?」



3人組は座って、そのうちの1人が


「3組の西野と付き合ってるんだ」


とさりげなく爆弾を落とした。


「そんなことないよ」


と否定の言葉を発するけど、驚きでよく考えられない。



「西野の部屋に入ってる所とか見たし、この写真まであるよ」



スマホに写っているのは、私と西野くんが手を繋いで買い物をしている所だった。



遠い場所に出かけたらバレないよね、ってなって2人で服を買いに行ってる所だ、まさかいるとは思わなかった。


考えが甘かった。



「この写真をばらまれたくなかったら、西野と別れて、そして俺と付き合って」



なにおかしいことを言ってるのだろうか、ばらまれたくはないけど、付き合うわけない。好きでもない相手と付き合うなんて最悪。



「付き合わないよ」



「じゃ、ばら撒くってことで」



「…待って、あのさ………こんなことして貴方達にメリットないよ?」



「メリット?そんなのいらない、ただ西野をいじめたいだけ、中学とおんなじように」



中学と同じようにって……西野くんはずっといじめられてたのこの人達に…?



またなんでいじめようとするの?虐めることが本人とっては快感なのだろうけど、本人の痛みを考えて行動するのも人間としては必要だ。それが3人には出来ていない。



「西野くん、悪いことしたの?」


「彼氏だから気になる?」


「生徒としても気になるの」


「あいつをいじめたいだけ、あいつはなにも悪くない、いじめる材料が出来たからいじめようとしてるだけ」


「貴方達、最低だね」


「そんな言葉先生が使っていいの?」


「事実だから、人を虐めたら必ず自分に戻ってくるから、いつか貴方達にも天罰が下ることになる」



「なんだと……」



「それにいじめてる貴方達より、西野くんの方が大人よ、強くて頑張っているし人を虐めることしか出来ない可哀想な3人より一回り以上心が広い人だと思うけど?」



「これ以上言うな!!」



生徒が殴りかかろうとして目を瞑った。


でもなにも傷は付かなかった。


目を開けると、結城くんがいた。


「結城くっ……ん……」


「たまたま通っただけ、スマホよこせ」


3人の顔には血が出ている。


一瞬のうちに殴ったのかな……


生徒はスマホを結城くんによこして、画像を消した。


「もう七瀬に付き纏うな、あと颯にも近づくな、近づいたら退学処分してやるからな、それと颯と七瀬との交際を誰かにいっても退学処分してやるから、分かったら早く出て行け」



普段はなにも喋らないで静かな結城くん。


笑えば爽やかでこの子もモテる。



でもさっきは、怖くて鳥肌が立っている。



3人も怖くなったのか、視聴覚室を出ていった。


結城くんは前髪を整えて、私を見た。


西野くんと違って前髪が目にかかっていなくてはっきり見える、青のカラコンしてる……


案外綺麗……



「結城くん、ありがとう。」



「俺は気付いてたから、颯と七瀬の交際」


「そうなの……?」


「あいつは重くて忘れられない過去を背負ってんだ、珍しいよ、あいつが人を好きになるのは」



重くて忘れられない過去……


気になるけど、聞かない方がいいと思った。


結城くんの顔も段々曇っていくのが分かる。相当残酷な過去なんだろう。それを私が聞いてスッと受け入れる自信はない。


でもどうしても気になることがある。



「結城くん、さっき3人とも殴ったよね?なんかしてたの?」



「あー、俺、暴走族、「紫神(ゼウス)」の総長の息子なんだ。総長は親父で副総長は俺の兄が務めてる。俺にも族に入れと言われたけど、縄張りが面倒くさいし、総長とか興味ない。でも小さい頃からたまに喧嘩に参加することがあってそれで強くなったのかも……」



………まじか。


ボソボソと話して小さい声で喋っているからか弱いイメージがあったけど、全く正反対だった。



こりゃ驚いた。金髪も族の影響かな、入ってないって言ってたけど。



もしかして、他の3人も族に関係してるのかな、なんて。



「すごいね、結城くん」


「すごくない、兄達がすごいだけだから、それに俺は颯と奏に挟まれる七瀬が凄いと思うな〜」



ゲッ



ウォッ



アッ




「なんで知ってるの!?」



結城くんは微笑む。楽しんでるんじゃないよ、西野くんといい、結城くんといい、人をからかって楽しむのは悪い癖だ!!!!



山本くんに至ってはオオカミにしか思えない。



というのも、1週間前くらいのこと……








放課後、教室に行った時、山本くんだけがいて、ずっとスマホをいじっていた。



山本くんにはキャンプ以降、警戒心があった。



「連絡先交換しろ」「俺の部屋に来い」



しまいには「誰かと付き合ってたらそいつを潰す」


とか言うから尚更警戒心が上がりまくっている。


元の鋭くて温度がないような目もある。


私はなんとか口実を作って逃げまくって今まで生きてきた。(生きてきたって大袈裟かな?)


西野くんと山本くんはずっと一緒にいるから、西野くんと私が付き合っていることがバレていないだけで奇跡だ。


放課後、山本くんだけが居る時点で引き返せばよかったものの、忘れ物をしてしまって仕事にどうしても必要なものだった。なにも話しかけないですぐ教室を出ようとしたら、


「話がある」


とだけ言われ、連れてこられたのは屋上だった。



「なに?これから会議あるの」



「七瀬、好きだ、付き合って欲しい。今まで素直に言える勇気出なかった、ごめんな」


ストレートに告白された。



天気は雨上がりで曇っていてジメジメしていた。それと同じように私の心も曇っていた。



山本くんが嫌いなんじゃない。でも私には西野くんがいる。少し乱暴で一方的で私のことなんかなにも考えてないじゃんと思ったこともあったけど、男らしいし、優しい部分があるのも分かる。



それでも離れたくなかった。


「ごめん、付き合えない」


「好きな奴いそうだな、でも俺奪うから」


まさかの宣戦布告。西野vs山本が起きてしまうの????


それは困る、見るのが辛い。


そう考えていたら、唇が塞がれた。生暖かい感触が体全体に伝わっていく。山本くんは唇を離して、



「じゃ、覚えておいて」














この一部始終を結城くんに全て見られていたという事実…


もうこの学校から逃げたくなる。


キスされた所を生徒に見られるのは結構メンタルくるよ……


「まだ奏は知らないよ、颯と七瀬の関係」


「あ、あのさ……山本くんに私のこと諦めてって言って欲しい……」


「やだ」


即否定される。めんどくさいことでもないし、今は助けが欲しい。



「恋は第三者が止められるものではないと思う、俺はただの傍観者でいるよ」



それはそうかもしれないけど……



「俺は奏にも颯にも何も言わないから安心して」


その微笑みを信用しろと……