「七瀬先生、6限の英語の授業入ってくれない?吾妻先生が用事で抜けたの」
「分かりました」
夏休みが終わるまであと1週間。毎日学校、毎日補習。毎日颯と会うか連絡。
「毎日颯と会うか連絡」があるから生きていける。
これがなかったら疲れも取れないし仕事も楽しさ半減だろう。
私の中で颯は大分占めてる。それほど颯に惚れてしまっている。忘れられないくらいに。
6限が終わってデスクを片付けて家に帰る。
「美波」
「………なんでここが分かったの」
高校の駐車場にいる裕太。転勤場所は言ってないはずなのに。
「綾香に聞いたよ、お前ら親友だろ」
「手段がおかしいなぁ」
私と綾香は大学時代からの友達で裕太とは高校からの同級生。3人で遊んだこともあった。裕太との失恋で綾香から慰めて立ち直った。綾香には感謝している。
「用事はなに?会いたくないんだけど」
「相変わらず冷たいな」
「なら離れれば」
「でも美波はデレは可愛いもんな」
「そんなこと言わないで」
「彼氏って高校生か?」
一瞬喉に詰まる。でもここは、
「あんたに関係ないよね」
否定は出来なかった。否定できればいいものを。
嘘も方便っていうことわざがあるように嘘ついても良かったかもしれないのに、嘘が言えなかった。
白々しく答える私、もう裕太に恋愛感情はないんだから。
「俺の方が幸せにできる。だから俺に来いよ」
「あのさ、なにがそんな自信あるの?先に私を捨てたの裕太だよ」
「俺の車に入って」
白い外車。運転席が左側にある。シートが黒革で座ってて気持ちいい。おっと……うとうとしてはいけない。
裕太は顔を右に向けて話す。一切目を離さないで。
「捨てたのは後悔してる。捨ててから全部を知った。美波が1番だし美波しか俺にはいない。もう離すつもりはない。」
「彼氏いるの」
「こいつか?名前は西野だな」
裕太のスマホには、颯が私のマンションに入って行く何枚もの写真に一緒に近くのコンビニに行く写真まである。
それになんで名前知ってるの……?
「なにこれ…」
「偶然見かけて、写真撮って脅せば美波が俺に来ると思ったんだよ」
「そんなことしても私は裕太についてこないし、こんな卑劣な方法使って気分いいわけ?」
喋ると楽しくて面白くて気遣いの出来る私には完璧な男、横山裕太(弱点はにんじんが食べられないこと)なのに、今では卑猥で卑劣なイメージしかない。勉強しすぎて常識忘れたパターンか??
「美波、俺と付き合えばこの写真は今消す」
「付き合わなかったら?」
「学校にばら撒く」
そうくると思った。ばら撒かれたら颯は退学になるだろうし、ばら撒かれなかったら別れなければいけない。
…どっちも嫌だ……
こうなったら、一か八か
「消して!」
裕太のスマホを奪おうとする。裕太は背が高いから手も長くて届かない。そしたら裕太が、私を座席に座らせて裕太が覆い被さっている。
「危険なことすると俺、もっと危険なことしちゃうよ?」
「……変わったね悪い意味で」
「大人の男になったってこと」
無理矢理唇を塞がれる。すぐ舌が入ってきて気持ち悪い、呼吸がうまく出来ない。
何度肩を叩いても動じない裕太。今思うと筋肉も嫌なパーツに見えて仕方がない。
いきなり運転席のドアが開かれる
「なにしてんだオメー!」
目の前には山本くんが。思いっきり奏パンチを喰らっている。
助手席が開かれて私を助けてくれた颯。
「大丈夫?山本と帰るとき美波とキスしてたから来たけど…は…??」
「どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
颯の目は冷たい。性格悪いぶりっ子を見るような目をしてる。
「こいつが美波の彼氏か」
「お前早く消えろ、美波来い」
山本くんなんか颯以上に雰囲気が冷酷で恐怖。帝王 山本 奏って感じ。
「行かせるわけねえだろ」
「俺は美波に用事がある」
「会わせる訳ねえだろ、早く消えろ」
私のことを守ってくれる山本くん。颯はずっと私の前にいて守ってくれる。何も喋らないけど裕太に怒ってるし私にも怒ってる気がする…
「美波、また連絡する」
裕太は口から出血していた。ちょっとは可哀想だと思った。
「山本くんありがとう、颯も」
「何してんだよ、キスされてたな」
「…………」
「ごめん……押し除けられなくて…」
「……なんだ、これ、、、」
颯は呆然と立っている。なにかに驚いてる様子だ。
「ごめんね、きちんと話すから」
「行ってこいよ、颯」
無理矢理連れてこられた颯の部屋。
でも私の意志もある。颯には説明しなければいけない。私の彼氏なんだから。
「颯……怒ってる、よ、ね、、」
「美波は悪くないの分かってる、あいつが無理矢理したことなんだろ、けど美波があんなことになってたのに足が動かなかった俺自身に怒ってる」
怖い……??
なにに怯えているんだろう。
颯なら山本くん以上に怒って裕太の前歯なんて折って鼻もへし折ってるはずなのに、ずっと怯えてるというか一点見つめばっかしている。
「なんかあったの?」
「あいつ、弟いないか?」
「裕太に?」
「そう」
「いるよ、寛太(かんた)くん」
「間違いないわ、寛太ってやつ俺いじめてた奴、毎日机汚してバケツの水頭にぶっかけたいじめの主犯」
「え……ほんとに…」
寛太くんには何度か会ったことがあるけど、優しいし明るいしいい子だと思ったけど……
とんでもない裏があった。
「それに寛太は何度か書類送検されてたはずだし、俺以外にもいじめた奴いたからな、それで兄にも会ったことがある」
寛太くんもやばいけど、裕太にも裏があったってわけだ…
大学時代気づかなかった私鈍感すぎる…
車での裕太はすごく怖かった、人間の心が抜けた皮しかない裕太だと思った。
「もう元カレに会わないで、絶対に」
「うん、ごめん」
「寛太のことは過去のことだしどうでもいいけど、美波が元カレに会うのは嫌だ、俺美波を監禁しちゃうよ?」
さらっと怖いこと言うね…他の女の子を監禁したら犯罪ですよ、犯罪。
まぁ私でも辞めて欲しいけど。
「監禁しないで、もう会わないから」


