富丘くんが住んでいるのは、このビルの10階だった。

幸か不幸か、まさか、身投げしようとしていたビルに元同期の自宅があるなんて、誰が思うだろう。


『⋯⋯この下、うちだから、そこで話そう』


捕まってしまった私は、そのままエレベーターへと乗せられて。

タバコの香りをまとわせた富丘くんは、私の手を硬く繋いだまま、ふたつ下の階へ降りて、エレベーターから三つ目の“10−A”と書かれた扉を開く。

広いフロアにドアは3つ。

そこでようやく私は、結構格式の高いマンションの屋上に上がっていたことに気づいた。


「はいって」

「⋯⋯おじゃまします」


ロックを解除した彼は、まずは私を中にいれて。

はいったところでようやく手を開放した富丘くんは、真っ赤になった腕を見て、「ごめん」と顔を歪めて労り、そのまま私を20帖ほどのリビングに連れてゆく。